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大学生はAIとどう向き合うべきか|生命科学系教授が本音で答える

  • 執筆者の写真: Akagi Lab
    Akagi Lab
  • 9 時間前
  • 読了時間: 9分

【この記事でわかること】

✅ 現役教授がAIをどう使っているか(5つの実例)

✅ AIを使いこなせる人と使いこなせない人の違い

✅ AI時代に大学生が本当に鍛えるべき力

執筆者

赤木紀之|福岡工業大学 教授

専門:幹細胞生物学、STAT3、C/EBP


1.私のAI活用法

生成AIが登場して、私の仕事のやり方は確実に変わりました。私は「AIの専門家」ではありません。でも日常的に使い続けてきた一人の生命科学系教授として、実際にどう使っているか、その代表例を紹介します。


① Nature論文を授業で読む

「細胞生物学」の講義の合間に、英国の学術誌「Nature」の目次をみんなで見る時間を設けています。面白そうな英語論文を見つけたら、その論文の要旨(250単語程度)をコピーして生成AIにペーストします。そしてこんな指示を出します。


「この要旨を日本の理系大学3年生にわかるように日本語で説明してください」


それをスクリーンに投影し、私なりの解説を加えながら論文の概要をつかんでもらいます。日本語で概要をつかんでから英語論文を読む。それだけで理解の深さが変わります。結果として、学生の心理的ハードルは明らかに下がりました。「Natureに興味を持った」という声も出てきました。英語論文の読解は大学生には相当に難しい。でもAIを橋渡しにすることで、世界最先端のサイエンスが一気に身近になります。


② 試験の持ち込み資料×AI予想問題

私の「生化学」や「細胞生物学」の試験は、A4サイズ自筆1枚の持ち込みを許可しています。暗記の部分は資料に任せ、試験では「理解できているか」「専門語句を正しく使えるか」を問うためです。


その際、学生にお勧めしているのが、「A4サイズ自筆1枚の持ち込み資料を生成AIに読み込ませ、予想問題を作る」ということです。自分でまとめた資料をもとにAIが問題を出す。これは非常に効率的な試験対策です。「良い方法だ」という声が学生から上がっています。


③ Claudeと一緒に試験問題を調整する

これは私が最も驚いた体験です。事前に私が作成した小テストの問題をClaudeに読み込ませ、こんな指示を出してみました。


「平均点が75点になるように、問題のレベルを調整してください」


選択問題にするか記述問題にするか、この語句は難易度が高い、こちらは低いーそういったやりとりを何往復も繰り返しました。半日ほどで調整が完了しました。


いよいよ試験を実施すると、実際の平均点は75.69点でした。昨年までは生成AIによる調整をしておらず、平均点は65点前後でした。AIと教員が協働して設計した試験が、目標通りの結果を出した。これには本当に驚かされました。


④ NotebookLMで業務を効率化する

NotebookLMは、PDFなどの資料を読み込ませてチャット形式で質問できるツールです。私は本学HPで公開されている学生便覧のPDFを入れています。「学生証を忘れた時の対応は?」「進級に必要な単位数は?」ーこれまで細かなルールはその都度調べていましたが、今はチャットで即座に解決できます。


さらにNotebookLMには解説動画を自動生成する機能があります。私が立ち上げた教育プログラム「地図のない旅へ~Future Self Lab~」の内容をNotebookLMに入れ、解説動画を作成しました。コンピュータによるナレーションですが、抑揚もついた自然な仕上がりです。「びっくりした」という声をもらいました。


⑤ Gamma AIでプレゼン資料を作る

例えば当ブログの「大学院のすゝめ -なぜ大学院に進学してまで研究することが大切なのか-」の記載内容を項目ごとに細分化し、Gamma AIに渡すと、美しいプレゼン資料を作成してくれます。言いたいことを分かりやすく言語化して渡すだけで、資料の体裁はAIが整えてくれます。プレゼン資料の作成時間が激減しました。これは本当に助かっています。


2.AIを使いこなせる人と使いこなせない人、何が違うのか

生成AIが普及して、誰でも使える時代になりました。でも「使っている」と「使いこなしている」は全く別の話です。学生を見ていても、その差は明確です。


① 「検索」と同じ使い方をしている

多くの学生のAIへの指示は、非常にシンプルです。


「〇〇について教えて」


これは検索エンジンへの入力と変わりません。


AIは対話ツールです。目的・条件・文脈・相手を丁寧に伝えるほど、回答の質が上がります。「理系大学3年生にわかるように」「箇条書きで3点にまとめて」「〇〇の立場から考えると」ーこういった指示の積み重ねが、AIから引き出せる答えの質を決定的に変えます。指示が簡素な人は、AIの能力の一部しか引き出せていません。


② レポートを読めばわかる

生成AIの出現以前から、私は数多くの大学生の課題やレポートを読んできました。生成AIを使ったかどうかは、読んでいれば意外とわかります。


普段の会話から、理路整然と話せる人、考え方が整理されている人、自分の実験を十分に理解している人のレポートは、文章にしてもしっかりしています。


一方、普段のコミュニケーションのレベルと格段に違うレポートが出てくることがあります。大変申し訳ないのですが、この時は「生成AIかな」と勘ぐってしまいます。もちろん、生成AIの使用が疑わしいからといって、減点はできません。


文章は、その人の思考力を映す鏡です。AIに丸投げした文章は、その人の思考を経由していないので、すぐに分かります。言い換えれば、その学生の「人」を知らない限りは、そのレポートの文章が、その学生のレベルだと評価することになります。


③ では生成AIをどう使えばいいのか?

私が学生に伝えていることはシンプルです。


「まず自分で書きなさい。その後、生成AIに添削させなさい。とてもきれいな日本語になります。その文章をレポートに反映させたい時には、自作の文章と生成AIの文章、両方を提出しなさい。」


生成AIの利用が悪なのではありません。自分の思考を経由しないことが問題なのです。AIはあくまで、自分の思考を磨くための道具です。


④ AIへの指示出し=人への指示出し

部下や学生への指示出しが上手で、目的通りに人を動かせる人は、AIも目的通りに動かせます。AIを使いこなせない人は、人への指示出しでも同じ壁にぶつかっているのでは、と思っています。


結局のところ、もともとスキルがある人は、AIが登場したことでそのスキルをさらに増大させることができる。言語化能力がある人が得をする時代ーそれが今なのではないでしょうか。


「その人の能力以上の結果は、生成AIからは出てこない」というのが現段階の私の印象です。


3. 今こそ大学生に必要な力はなにか?

AIが日常になった今、大学生は何を鍛えるべきか。研究室で学生を見続けてきた立場から、本音で伝えます。


① 言語化能力こそが、AI時代の最強スキル

繰り返しになりますが、AIを使いこなせる人と使いこなせない人の差は、結局のところは「言語化能力」の差だと感じています。


自分が何を知りたいのか。何を伝えたいのか。どんな答えを求めているのか。それを丁寧に言葉にできる人だけが、AIから本当の意味で価値ある答えを引き出せます。


これはAIが登場する前から変わらない、本質的な話です。AIは道具です。道具の性能を引き出すのは、使う人間の力です。


② 赤木研での訓練

研究室に配属されたばかりの4年生は、最初の1か月はまだ実験データがありません。それでも毎週ゼミはやってきます。


そこでこの時期は「先週何をしていたか」を丁寧に説明する訓練をしています。さらに学生同士で「互いに質問」してもらいます。


「大学生になっても、まだそんな訓練?」と思われがちですが、これは意外と高度なスキルです。社会人でも短時間で端的に自分の1週間の行動を説明できる人は少ないと思います。


また「質問力」は「課題の発見能力」だと思っています。相手の話を聞いて、疑問を見つけ、それを言葉にして相手に問う。この訓練を繰り返すことで、自分の頭を整理し、相手にわかるように伝える力が少しずつ育っていきます。


そしてこの力は、相手が人間であってもAIであっても全く同じです。いかに丁寧に自分の疑問をAIに伝えられるか。それが回答の質を決めます。


③ レポートで鍛える言語化

言語化能力を鍛える場として、レポート作成は最高の訓練です。


実験データのグラフや表をレポートに貼って「上の図のような結果が得られた」と書く学生がいます。これは「実験結果」を全く言語化できていません。グラフが何を示しているのか、数値はどう変化したのか、それが何を意味するのかーデータを言葉で説明する力、これこそが言語化能力の核心です。


この力は、レポートだけでなく学会発表でも、就職面接でも、そしてAIへの指示出しでも、全ての場面で問われます。当然、SNSでも同じです。言葉を選ばない発信は、相手に届かないだけでなく炎上のリスクもあります。社会に向けて発信する緊張感が、言語化能力を鍛えます。


④ プレゼン力こそ、必須なスキル

資料作成はAIがやってくれる時代になりました。CanvaやGamma AIを使えば、誰でも美しいプレゼン資料が作れます。おそらく近い将来、資料作成は完全にAIの仕事になるでしょう。


では人間に求められるスキルは何でしょうか。それはプレゼン力だと思います。


どんなに質の高い資料があっても、聴衆に訴求するのは人間です。言葉の選び方、間の取り方、熱量の伝え方ーこれはAIには代替できません。


就職の面接でも同じことが言えます。志望理由をAIで作成している学生は多い。それは自明のことです。でも実際に会って話してみて、そのレベルの差を知るとがっかりされます。


「自分で自分を語れるスキル」ーこれが今後ますます重要になります。


言語化する力、質問する力、伝える力、そして自分を語る力。これらはすぐには身につきません。大学4年間・大学院2年間でじっくり養ってほしいと思います。AIをうまく使いながら、同時にこれらの力を鍛え続けてください。


4.おわりに

最後に、私が印象深かったエピソードを紹介します。


先日、当研究室の大学院生2人と生成AIについて話しました。実は2人とも、生成AIの使用には後ろ向きでした。その理由がこうでした。


「今の自分は、論文の読み書きのプロセスを学ぶ時期。ここで生成AIを使ってしまうと、自分が成長できない。何らかの理由でAIが使えなくなったとき、論文を読み書きできない自分を想像すると怖い」


「先生はもともと論文を読み書きできるから、生成AIで効率を上げるのはいい。でも自分たちにはまだそのスキルがない。だから今は自分で勉強したい」


誰かに教わったわけでもなく、自分で考えてたどり着いた言葉です。


生成AIは強力なツールです。しかしそれは「すでに持っているスキルを増幅するもの」であって、「スキルそのものを代替するもの」ではない。2人はその本質を、自分の力で理解していました。


「今の自分に何が必要か」を自分で判断できること。それ自体が、研究者として、そして社会人としての大切な資質だと思います。


今後、AIスキルは社会で必須な能力になることは間違いありません。それでも、AIをどう使うか。そしてそれ以前に、AIとどう向き合うか。その問いを自分の頭で考えられる若者がいる。それがなんだか頼もしく、誇らしく感じました。



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