研究内容
福岡工業大学工学部 生命環境化学科 赤木研究室では、遺伝子発現、幹細胞、がん細胞、増殖と分化などをキーワードに幹細胞の自己複製能や多分化能を制御する分子メカニズムの解明に取り組んでいます。


多能性幹細胞の自己複製制御機構の解析
発生初期胚に由来する多能性幹細胞は、 自己複製能と多分化能を併せ持った細胞として知られています。マウスの場合、受精後3.5-4.5日胚に由来する細胞株を胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell; ES細胞)、受精後6.0- 7.5日胚に由来する細胞株をエピブラスト幹細胞と呼びます。マウスES細胞はより未分化な状態である「ナイーブ型」、エピブラスト幹細胞はやや分化の進んだ「プライム型」と言われています。ES細胞とエピブラスト幹細胞は、共に自己複製能と多分化能を保持していますが、培養時のサイトカイン要求性が異なります。ES細胞はLIFを、エピブラスト幹細胞はFGF2とActivin Aを培地に添加することで未分化状態が維持されます。マウスES細胞の幹細胞としての性質は、LIF刺激によるSTAT3の活性化と、ES細胞特異的なコア転写因子群(Oct3/4、Nanog、Sox2)によって制御されています。最近では、ES細胞とがん細胞の類似性が指摘されています。当研究室では類似性に着目し、ES細胞の性質を規定する分子基盤の解明に取り組んでいます。

転写因子C/EBPファミリーによる血球分化制御機構の解明
私たちの体を感染症から守る白血球は、骨髄にある造血幹細胞から段階的に分化して作られます。造血幹細胞から生み出される骨髄系前駆細胞は、その後、単球系と顆粒球系の2つの経路に分かれて分化を進める。単球系からは細菌を貪食(どんしょく)するマクロファージが、顆粒球系からは感染防御の最前線で働く好中球、アレルギー反応に関わる好酸球・好塩基球が生まれます。
好中球の分化過程は詳細に解明されており、骨髄芽球→前骨髄球→骨髄球→後骨髄球という段階を経て成熟した好中球となる。この複雑な分化過程を正確に制御しているのが、C/EBPファミリーと呼ばれる転写因子群です。
私たちの研究室では、基礎研究から臨床応用まで一貫したアプローチで、C/EBPファミリー(特にC/EBPβとC/EBPε)が血球分化をどのように制御しているかを解明してきました。ノックアウトマウスを用いた基礎的機能解析から始まり、これらの転写因子の異常によって引き起こされる希少な免疫不全症「好中球特異顆粒欠損症」の分子機構解明、さらには新たな治療戦略の提案まで、15年以上に渡って取り組んで入います。
この研究は、基礎医学の知見がいかにして実際の患者さんの病気の理解と治療に結びつくかを示す好例となっています。