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研究内容 -血球分化や白血病・固形癌に関する研究-

  • 執筆者の写真: Akagi Lab
    Akagi Lab
  • 2021年11月3日
  • 読了時間: 4分

更新日:5月25日

転写因子C/EBPによる好中球分化の研究 ~基礎から臨床への道のり~

【1】C/EBPβの新たな機能の発見

 血液中の白血球の一種である好中球は、細菌感染などから私たちの体を守る重要な役割を担っています。転写因子C/EBPβは、もともとマクロファージという免疫細胞の分化や機能を制御することで知られていましたが、好中球における役割は十分に解明されていませんでした。

 私は、C/EBPβを欠損したノックアウトマウスを用いて好中球の機能を詳しく調べました。その結果、C/EBPβがない好中球では、①細菌の成分に対する応答が弱くなり、②通常よりも早く細胞死が起こることを発見しました。これにより、C/EBPβが好中球の正常な機能と生存維持に重要な役割を果たしていることが明らかになりました(Blood 2008年)。


【2】協調的制御メカニズムの解明

 C/EBPファミリーは構造が似た転写因子のグループで、互いに機能を補い合うことが知られています。C/EBPβとC/EBPεという2つの転写因子が、実際にどのように協力して血球分化を制御しているかを調べるため、両方を同時に欠損させたダブルノックアウトマウスを作製しました。

 このマウスの解析から、①生後数ヶ月以内に重篤な感染症で死亡し、②好中球の分化が途中で止まってしまい、③骨髄では未分化な造血幹・前駆細胞が異常に蓄積していました。興味深いことに、これらの症状は片方だけを欠損させたマウスでは見られませんでした。このことから、C/EBPβとC/EBPεは互いに機能を代替し合い、協調的に血球分化を制御していることを示しました(PLoS ONE 2010年)。


【3】希少疾患の分子機構解明への挑戦

 転写因子C/EBPεに変異が起こると、「好中球特異顆粒欠損症(SGD)」という極めて稀な免疫不全症を発症します。この病気の患者さんは世界でも数例しか報告されておらず、重篤な感染症に苦しむことになります。

 私たちは日本で2例目となるSGD患者さんを発見し、その方が持つ新しいタイプのC/EBPε変異の詳細な解析を行いました。この変異型C/EBPεは、①転写を活性化する能力が大幅に低下し、②核への移行やDNAへの結合は正常に行えるものの、③他の重要な転写因子(PU.1やGata1)との相互作用ができないことを発見しました。

 さらに研究を進めると、この変異型タンパク質は本来相互作用すべきでないHDAC1(ヒストン脱アセチル化酵素)と結合してしまい、それが機能低下の一因となっていることも判明しました。そして、HDAC阻害剤によってその機能を部分的に回復させることができることも示しました(Journal of Immunology 2015年Biochemical and Biophysical Research Communications 2019年)。


【4】新たな変異型の発見と分類体系の提案

 その後、インドの研究者との国際共同研究により、さらに新しいタイプのCEBPE変異を持つ患者さんを発見しました。この患者さんは従来の報告とは異なり、著明な好中球減少症を示していました。詳細な解析により、自動血球計算装置が好中球の形態異常により正確な計測を行えないことも明らかになりました(Journal of Clinical Immunology 2022年)。

 最新の研究では、これまでに発見された様々な変異型の機能を比較検討し、SGDをより詳細に分類する新しい体系を提案しました。フレームシフト変異により生じる変異型タンパク質は、核移行能とDNA結合能の両方を失い、より重篤な臨床症状を示すことを明らかにしました。この発見により、変異の種類から患者さんの症状の重篤度をある程度予測できる可能性が示唆されました(Clinical and Experimental Immunology 2025年, 印刷中)。


【5】白血病細胞やがん細胞の遺伝子異常の解析

 急性骨髄性白血病(AML)は、発症例の約半分に様ざまな染色体転座を伴う。一方で残りの半分では染色体転座は伴わず、正常核型AMLであり、このような細胞では遺伝子レベルでの変異が生じている。私は染色体転座の生じている2種のAML( t(8;21) AMLとt(15;17) AML )と、正常核型AMLの3タイプについて、遺伝子異常の網羅的な解析を行った。これらの解析から、(1) t(8;21) AMLでは、約3割のサンプルでKIT遺伝子変異などの付加的な遺伝子異常があり、そのグループは予後が悪いこと、(2) t(15;17) AMLでは、FLT3異常を伴うもの、c-Myc異常を伴うもの、その他の遺伝子異常を伴うもの3グループへの分類を見出し、白血病発症にはいくつかの経路があること、(3) 正常核型AMLでは、5割弱のサンプルで片親ダイソミーが認められ、その領域にJAK2変異などの遺伝子異常が存在すること、などを明らかにした(Akagi et al. Haematologica. 2009a; Akagi et al. Blood. 2009; Akagi et al. Haematologica. 2009b)。その他、甲状腺がんや食道がんについても、遺伝子異常の解明や変異型遺伝子の機能解析を遂行した(Akagi et al. Br J Cancer. 2008; Akagi et al. Int J Cancer. 2009ほか)。




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