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執筆者の写真Akagi Lab

研究内容 -血球分化や白血病・固形癌に関する研究-

■血球分化や白血病・固形癌に関する研究


白血病細胞やがん細胞の遺伝子異常の解析

 急性骨髄性白血病(AML)は、発症例の約半分に様ざまな染色体転座を伴う。一方で残りの半分では染色体転座は伴わず、正常核型AMLであり、このような細胞では遺伝子レベルでの変異が生じている。私は染色体転座の生じている2種のAML( t(8;21) AMLとt(15;17) AML )と、正常核型AMLの3タイプについて、遺伝子異常の網羅的な解析を行った。これらの解析から、(1) t(8;21) AMLでは、約3割のサンプルでKIT遺伝子変異などの付加的な遺伝子異常があり、そのグループは予後が悪いこと、(2) t(15;17) AMLでは、FLT3異常を伴うもの、c-Myc異常を伴うもの、その他の遺伝子異常を伴うもの3グループへの分類を見出し、白血病発症にはいくつかの経路があること、(3) 正常核型AMLでは、5割弱のサンプルで片親ダイソミーが認められ、その領域にJAK2変異などの遺伝子異常が存在すること、などを明らかにした(Akagi et al. Haematologica. 2009a; Akagi et al. Blood. 2009; Akagi et al. Haematologica. 2009b)。その他、甲状腺がんや食道がんについても、遺伝子異常の解明や変異型遺伝子の機能解析を遂行した(Akagi et al. Br J Cancer. 2008; Akagi et al. Int J Cancer. 2009ほか)。


転写因子を介した血球分化① -C/EBPβの解析-

 血液系細胞のマクロファージは、異物を貪食することで生体防御に関与している。転写因子C/EBPβは、マクロファージの分化や機能を制御することが知られている。私は、血液系細胞におけるC/EBPβの新たな機能を探索する目的で、C/EBPβノックアウト(KO)マウスの好中球の解析を遂行した。その結果KOマウスの好中球は、(1) LPS応答性が減弱し、IL-6やIL-10などの発現が充分に誘導されないこと、(2) 細胞死が促進していること、などを見出した。このことから、C/EBPβは好中球の機能や生存にも関与していることを見出した(Akagi et al. Blood. 2008)。


転写因子を介した血球分化② -C/EBPβとC/EBPεの解析-

 C/EBPファミリーは構造的に相同性が高く、機能的重複が知られている。血液系細胞におけるC/EBP群の機能を解析する目的で、C/EBPβとC/EBPεのダブルノックアウト(dKO)マウスを作製し表現型を解析した。この解析からdKOマウスでは、(1) 生後、数カ月以内に重篤な感染症で死亡すること、(2) 好中球は形態的に分化が停止していること、(3) 骨髄では造血幹・前駆細胞が分化せずに蓄積していること、などを見出した。本研究で得た知見は、それぞれのシングルKOマウスでは観察されない表現型であった。このことから、C/EBPβとC/EBPεでは互いに機能を代替する役割があり、両者が協調的に血球分化を制御していることを見出した(Akagi at al. PLoS ONE. 2010)。


好中球特異的二次顆粒欠損症の研究

 転写因子C/EBPεは好中球分化に必須の転写因子である。ヒトではC/EBPε遺伝子に変異が入ることで好中球分化が停止し、好中球特異的二次顆粒欠損症(SGD)を発症する。この疾患は重篤な感染症を呈するが、常染色体劣性遺伝であるため、世界的にも希少疾患である。本研究では、国内2例目となるSGDを報告し、その患者が保持していた新規変異型C/EBPεの解析を行った。その結果、変異型C/EBPεは、(1) 転写活性化能が大きく低下していること、(2) 核移行能やDNA結合能は正常であること、(3) PU.1やGata1など、他の転写因子との相互作用ができなこと、などを見出した。このことから、新規変異型C/EBPεは他のタンパク質との相互作用に異常が生じ、その結果機能が欠損し、好中球が正常に分化せず、SGDを発症する、という新しいモデルを提唱することができた(Wada and Akagi et al. J Immunol. 2015; Muraoka et al. BBRC 2019)。



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