工学部生命環境化学科から医薬品業界へ:確実な就職実績を支える教育システム~赤木研究室の一例
- Akagi Lab

- 10月12日
- 読了時間: 8分
更新日:10月14日
1. はじめに
「医薬品業界に就職したいから赤木研で卒業研究をしたい」 - 実はこういった声がちらほらあります。工学部といえば機械、電気、情報系の企業への就職が一般的ですが、当研究室では少し異なる道筋を歩んでいます。このブログでは、なぜ工学部生命環境化学科から医薬品・バイオテクノロジー業界への就職実績が生まれているのか、その理由を考察してみたいと思います。
2. これまでの就職実績
まず、当研究室が始まった2020年度以降の赤木研究室出身者の就職先/内定先をご覧ください。ご覧の通り、多くの卒業生が医薬品・医療機器関連企業に就職しています。工学部としては、かなり珍しい印象を受けるのではないでしょうか。
修士修了者
タカラバイオ株式会社 | バイオ研究用試薬・研究受託 |
株式会社新日本科学 | 医薬品開発受託・前臨床事業 |
日本新薬株式会社 | 生産技術職・希少疾患医薬品開発 |
日本ケミファ株式会社 | 研究職・ジェネリック医薬品等 |
イーピーエス株式会社 | CRO・臨床開発モニター |
学部卒業者
KMバイオロジクス株式会社 | ワクチン・医薬品製造 |
株式会社EP綜合 | 治験コーディネーター |
PDRファーマ株式会社 | 放射性医薬品 |
株式会社新日本科学 | 医薬品開発受託・前臨床事業 |
漢方薬開発・製造 | |
株式会社モリタ製作所 | 歯科・耳鼻科・画像診断機器 |
エイワイファーマ株式会社 | 輸液・注射剤開発 |
インクロム株式会社 | 治験コーディネーター・SMO |
旭化成株式会社 | ヘルスケア事業・ウイルス除去フィルター開発 |
3. なぜこれが可能なのか?:5つの理由
この就職・内定先とても興味深い傾向だと思います。その理由を考察してみました。
理由1:生命科学と自然科学一般の分野横断型教育 |
本学科は物質化学、環境エネルギー、生命科学、食品の4分野から構成されています。赤木研の学生は生命科学を専攻しながらも、低学年時に解析学、線形代数学、基礎物理学、無機化学、有機化学、分析化学、物理化学などの自然科学分野の基礎をしっかり学んでいます。自然科学全般を広く学び、並行して生命科学を深く学ぶこのシステムにより、医薬品業界でも十分に通用する基礎力が育まれていると考えています。その上で、生命科学系の履修科目として以下の講義や実習が準備されています。
学部の座学:「生命科学基礎」「生物化学」「微生物学」「応用微生物学」など、生命科学の基礎から応用まで体系的に学習します。
実験科目:「生物化学実験」では見えないものを可視化する技術(PCR、電気泳動、顕微鏡観察など)を、「生命科学実験」では見えないものをデジタル化する技術(リアルタイムPCR、ウエスタンブロット解析など)を習得します。
修士課程:「生物化学特論」でさらに深い専門知識を学び、「国際学会等発表演習」「英語論文作成特別演習」で国際的なプレゼンテーション能力を身につけます。 |
理由2:実践的なスキル育成 |
生命環境化学科のカリキュラムや赤木研究室での研究活動を通じて、以下の実践的スキルを習得します。
研究スキル:細胞培養、RNA抽出、real-time PCR解析、ウエスタン解析など、医薬品業界で即戦力となる分子生物学的技術を習得します。
プレゼンテーション能力:毎週のゼミでの研究発表、学会発表、英語でのプレゼンテーション訓練を重ね、卒業時には高いコミュニケーション能力を身につけています。
学会発表の実績:修士課程の学生は日本生化学会や日本分子生物学会で年1-2回発表し、実践的なプレゼンテーション能力を磨いています。 |
理由3:豊富な国際交流の機会 |
福岡がアジアの玄関口という地理的優位性を活かし、充実した国際交流プログラムを実施しています。
日本人学生の海外研修:毎年、明志科技大学・宜蘭大学(台湾)での1週間のgPBL(課題解決型学習)に学科全体で参加(4-8名、赤木研からも1-2名参加)。現地大学の学生とともに課題に取り組み、実践的な国際協働を体験します。
留学生の受け入れ:赤木研究室では、年間2-3名(2025年は5名)の留学生を3か月間受け入れ。Munster Technological University(アイルランド)、King Mongkut's Institute of Technology Ladkrabang(タイ)、Temasek Polytechnic(シンガポール)など、多様な国からの学生が赤木研究室に学びにきています。研究室では英語での会話がはずみ、みんなでゲラゲラ大笑いするほど交流が深まっています。この日常的な異文化交流を通じて、多様性尊重のマインドが自然に育成されています。 |
理由4:基礎医学に特化した研究内容 |
研究室配属後は、医薬品業界に直結する専門研究に取り組みます。当研究室では「細胞の運命制御機構の解明」を大きな目標として、多能性幹細胞や血球分化制御の研究に取り組んでいます。特に人の疾患との関わりに着目し、がん遺伝子を介した幹細胞性制御機構や、遺伝子変異による免疫不全症の病態解明に取り組んでいます。これは一般的な工学部の研究とは明らかに異なり、医薬品業界で求められる知識や技術に直結しています。 |
理由5:充実した就職支援体制 |
さらに心強いのは、本学就職課を中心とする事務職員の皆さまによる手厚いサポート体制です。専門の事務職員が学生一人ひとりに向き合い、履歴書の添削、面接対策、進路相談などを丁寧に行ってくれます。赤木研での専門的な指導と大学全体の就職支援が組み合わさることで、より確実な就職活動が実現できるのです。 |
4. 2022年が転機~起爆剤となった成功体験
実は当研究室は2020年にスタートしました。2022年度の卒業生たちが「タカラバイオ」「新日本科学」「KMバイオロジクス」「株式会社EP綜合」など、一気に複数の医薬品企業に就職してくれたことが起爆剤になりました。彼ら彼女らは企業研究を重ね、「赤木研で生命科学研究に携わっているなら、医薬品業界への道もあるのでは?」と気づいたのです。私も徹底して指導し、「なぜ医薬品業界なのか」「なぜこの会社なのか」を一緒に言語化していきました。この成功例があることで、後輩たちも「自分にもできるかも」という道筋を描けるようになりました。そして2023年度以降も着実に実績を積み重ねています。
5. 企業から見た魅力~「意外性」と「多様性」
採用企業目線でみると、以下の点で興味を示してもらっているのかもしれません。まずは「意外性の価値」です。「工学部なのに生命科学?」という良い意味でのギャップが印象に残るのかもしれません。さらに「多様性の重要性」です。医薬品業界では薬学部や理学部出身者が多いですが、工学部という異なるバックグラウンドを持つ人材が加わることで、多様な視点や発想が生まれ、イノベーション創出への期待感があるのかもしれません。そして「即戦力性」です。基礎的な化学知識と生命科学のスキルを併せ持つ人材として評価して頂いているのかもしれません。
6. 10年先を見据えた価値ある選択
医薬品・バイオテクノロジー業界には以下の特長が挙げられます。まずは人の健康と生命に直結する仕事であり「社会貢献性が高い」と言えます。また高齢化社会に伴いニーズ拡大するため「安定した成長市場」と言えます。さらに最近では、生命科学の知識とAI技術を組み合わせて新しい価値を創造できる分野として「AIを活用できる高い専門性」も挙げられます。「国際性が豊か」である点も重要です。新薬開発は世界同時進行で行われ、グローバル治験、海外規制への対応、国際カンファレンスでの情報収集など、世界を舞台にした業務が日常的です。赤木研での留学生との交流や英語プレゼン訓練が、研究職や治験のプロジェクトマネージャーなどのキャリアに直結しているのかもしれません。
従来の工学部の就職先とは一線を画す、新しい可能性がここにあります。薬学部や理学部とは異なるバックグラウンドを持つ人材を採用することで、企業にとっても多様性のあるチーム作りが実現できるのです。
7. あなたも医薬品業界への道を歩めます
「でも、自分にできるかな...」と思っている高校生の皆さん、心配無用です。入学時に特別な知識は必要ありません。大切なのは、生命科学への興味・関心、人の健康や病気について考える気持ち、学んだことを社会に役立てたいという想いです。これらがあれば、4年間(修士なら6年間)の学びを通じて、必要なスキルは身につけられます。ただし、赤木研への配属は3年後期からで、希望者が多い場合は成績(GPA)で選考されます。低学年のうちから全体的な科目の成績を意識することも大切です。
8. 多様な進路の可能性
もちろん、赤木研の卒業生全員が医薬品業界に進むわけではありません。食品業界、環境関連企業、技術・施設管理、広告業界、流通、教育機関など、多様な進路を選ぶ学生もいます。生命環境化学科で培った幅広い基礎力と専門性は、様々な分野で活かすことができます。医薬品業界はあくまで選択肢の一つであり、自分の興味や適性に応じて進路を選べる柔軟性があることも、大きな特長の一つです。詳しくはこちらをご確認ください。
9. 最後に
福岡工業大学工学部から医薬品業界へ―この少し意外な道筋が、皆さんの将来の選択肢の一つになれば嬉しく思います。化学系の基礎力と生命科学の専門性を併せ持つ人材として、社会に貢献する道がここにあります。
興味を持った方は、ぜひオープンキャンパスなどで赤木研究室を訪ねてみてください。研究室の雰囲気や学生たちの生の声を聞いていただければ、きっと新しい発見があると思います。






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